賃貸物件からの退去が決まり、引っ越しの準備を進める中で、管理会社から提示された退去費用の精算書に「鍵交換費用」という項目を見つけ、驚いた経験はありませんか。「入居する次の人のための費用なのに、なぜ退去する私が払うの?」と、疑問に思うのは当然のことです。この退去時の鍵交換費用の請求は、賃貸借契約におけるトラブルの種となりやすい、非常にデリケートな問題です。この問題を考える上で、基本となるのが国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。このガイドラインでは、次の入居者を確保するための鍵交換は、本来、大家さん側が行うべき設備投資の一環であり、その費用は「貸主(大家さん)が負担するのが妥当」であると明確に示されています。経年劣化や通常の使用による鍵の損耗も、基本的には大家さん負担とされています。つまり、原則論で言えば、退去者がこの費用を負担する義務はないのです。しかし、現実には、契約時に「退去時の鍵交換費用は借主の負担とする」という「特約」が設けられているケースが少なくありません。もし、あなたが契約書の内容を十分に理解し、納得した上でこの特約に署名しているのであれば、残念ながらその支払い義務が生じてしまいます。契約とは、双方の合意の上に成り立つ約束だからです。ただし、この特約が有効と認められるためには、単に契約書に小さな文字で書かれているだけでなく、契約時に不動産会社からその内容について明確な説明があり、借主がそれを十分に認識し、自由な意思で合意したという事実が必要です。もし、そのような説明が一切なく、一方的に請求されているような場合は、その特約の有効性について異議を唱えることができる可能性があります。まずは、お手元の賃貸借契約書をもう一度よく読み返し、鍵交換に関する特約の有無を確認してみてください。そして、もし請求に納得がいかない場合は、すぐに支払いに応じるのではなく、地域の消費生活センターなどに相談してみることをお勧めします。
退去時の鍵交換費用、誰が払うべきかという問題