あれは、私が社会人になり、初めて一人暮らしを始めた時のことです。都心から少し離れた、家賃も手頃なアパートを見つけ、浮かれた気分で契約を進めていました。初期費用を少しでも抑えたいという気持ちが強く、不動産会社の担当者から「鍵交換はどうされますか?費用は一万五千円ですが、前の入居者さんから鍵は全て回収しているので、そのままでも大丈夫ですよ」と言われた時、私は迷わず「じゃあ、そのままでお願いします」と答えてしまったのです。今思えば、なんと無防備で愚かな判断だったことでしょう。入居して数ヶ月が経ったある日、仕事から帰宅すると、部屋のドアに鍵がかかっていませんでした。朝、確かに施錠したはずなのに。恐る恐る中に入ると、幸いにも物が盗られたり、荒らされたりした形跡はありませんでした。しかし、誰かがこの部屋に入ったかもしれない、という事実は、私の心に鉛のような恐怖を植え付けました。その夜は、家具でドアにバリケードを作り、ほとんど一睡もできませんでした。翌朝、すぐに管理会社に連絡し、事情を話して、大急ぎで鍵を交換してもらう手配をしました。結局、私は一万五”千円の交換費用を支払い、数日間、恐怖に怯えながら過ごすことになったのです。あの時、入居時に鍵交換をしていれば、こんな思いをすることはなかった。たった一万五千円をケチった代償は、金銭的な損失以上に、精神的な平穏を失うという、あまりにも大きなものでした。前の入居者がどんな人物で、どこで合鍵を作っているかなど、知る由もありません。鍵交換は、単なる儀式やオプションではない。それは、過去の入居者との関係を完全に断ち切り、その部屋の安全を自分だけのものにするための、絶対に必要な「聖域化」の儀式なのだと、私はこの苦い体験を通じて痛感しました。これから新生活を始める皆さんには、私と同じ後悔を、決してしてほしくないと心から願います。
私の体験談。入居時の鍵交換を怠った後悔