ある築十五年の住宅において、玄関ドアが閉まりにくいという報告を受け、詳細な調査を行いました。この事例では、住民が数ヶ月前からドアを閉める際に強い力で引っ張る必要があり、特に気温の低い朝方にラッチが引っかかる頻度が高くなっていました。まず現地で確認したところ、ドアノブを回した際のラッチの引き込み自体は正常でしたが、ドアを閉じる動作においてラッチの傾斜面がストライクプレートの下端に強く干渉していることが判明しました。これは経年劣化によりドア本体が約二ミリメートル沈み込んだことが主因です。さらに、住民が独断で市販のシリコンスプレーを大量に使用したため、古いグリスと混ざり合って黒いスラッジとなり、ラッチケースの隙間に付着していました。このスラッジが低温下で硬化し、ラッチの出入りを阻害していたのです。修理手順としては、まずラッチユニットを取り外し、パーツクリーナーを用いて内部の固着した汚れを完全に洗浄しました。その後、高純度のボロン粉末を塗布し、元の位置に再設置しました。ドアの沈み込みに対しては、丁番にある調整用ワッシャーを交換し、垂直方向のクリアランスを修正することで、ラッチとストライクの中心線が一致するように調整しました。その結果、ドアは自重による慣性だけでもスムーズに閉まるようになり、住民が感じていたストレスは完全に解消されました。この事例研究から得られた教訓は、初期の建付けのズレを放置したことが二次的なメンテナンスミスを誘発し、状況を複雑化させたという点にあります。特に多湿な地域や気温差の激しい環境では、建具の微妙な動きの変化が顕著に現れるため、定期的な目視点検と正しい知識に基づいた清掃が、長期的な資産価値の維持において極めて重要であることが再確認されました。