私たちは海外旅行に出かけた時、その土地の食事や文化、景色に心を奪われますが、時として、最もその国の素顔を垣間見ることができる場所が、公共のトイレかもしれません。そして、その扉に付いている鍵一つをとっても、そこにはその国の文化や、安全に対する考え方が色濃く反映されています。日本の公共トイレの鍵は、その多くが「表示錠」タイプであり、使用中は外側の表示が赤に変わることで、中に人がいることを明確に示します。そして、ほとんどの場合、内側から施錠するつまみ(サムターン)は、誰でも簡単に操作できる形状をしています。これは、利用者の利便性を最大限に尊重し、また、誰もが迷うことなく使えるようにという「ユニバーサルデザイン」の思想に基づいています。この背景には、日本の社会が持つ、比較的高いレベルの治安と、他人への信頼感があると言えるでしょう。一方、欧米の多くの国の公共トイレでは、全く異なる思想の鍵に出会うことがあります。それは、非常に頑丈で、ゴツゴツとした金属製の、まるで金庫の扉のようなデッドボルト式の鍵です。内側から太いかんぬきをスライドさせて施錠するこのタイプは、外からの破壊行為に対して非常に強い抵抗力を持っています。これは、残念ながら、公共の場における破壊行為や、トイレ内での犯罪といったリスクが、日本よりも高い社会であることを物語っています。また、東南アジアの一部の国などでは、トイレに鍵そのものが付いていない、あるいは壊れたまま放置されているという光景にも出くわします。これは、プライバシーという概念に対する文化的な違いや、インフラ整備の状況を反映しているのかもしれません。さらに、最近では、施錠するとドアのガラスが不透明に変わる、ハイテクなトイレも登場しています。たかがトイレの鍵、されどトイレの鍵。その小さな部品一つを注意深く観察してみるだけで、その国の治安、文化、技術レベル、そして人々が何を大切にしているのかという、奥深い国民性までが見えてくる、興味深い文化の窓なのです。
公共トイレの鍵が語る、その国の文化と安全