あれは、忘年会シーズンの金曜の深夜でした。同僚たちとの楽しい飲み会を終え、ほろ酔い気分で自宅アパートの前に着いたのは、終電もとうに過ぎた午前2時。ポケットに手を入れた瞬間、私の酔いは一気に醒めました。あるはずの、冷たくて固い鍵の感触が、どこにもないのです。カバンの底までひっくり返し、上着の全てのポケットを探りましたが、結果は同じ。おそらく、一次会から二次会へ移動する途中のどこかで落としてしまったのでしょう。途方に暮れた私が、最後の望みを託して電話をかけたのが、入居時にもらった書類に書かれていた「24時間緊急サポート」の番号でした。これが管理会社の窓口に繋がるのだと、その時の私は信じて疑いませんでした。数回のコールの後、電話に出たのは、眠そうな声の男性オペレーターでした。私は必死に状況を説明しました。「〇〇アパートの者ですが、鍵を失くして家に入れません。何とか開けてもらえませんか」。しかし、返ってきた答えは、私の僅かな希望を打ち砕くのに十分すぎるほど、冷たく事務的なものでした。「申し訳ございません。鍵の紛失は、当サービスの対応範囲外となります。お客様ご自身で、鍵の専門業者をお探しいただき、ご対応ください」。その非情な通告に、私は一瞬、言葉を失いました。「そんな…管理会社なのに、何もしてくれないんですか?」。食い下がる私に、オペレーターは、まるでマニュアルを読み上げるかのように、防犯上の理由から本人確認ができないため、開錠は一切行えない、と繰り返すだけでした。電話を切った後、真冬の寒空の下、私はスマートフォンの小さな画面で、震える指で「鍵屋 24時間」と検索し始めました。あの夜の、誰にも助けてもらえないという孤独感と、管理会社への微かな憤り、そして何より自分の不注意への深い後悔は、今でも忘れられません。この経験は、私に「賃貸物件のトラブルは、最終的には自己責任である」という、厳しい現実を教えてくれました。